海外子会社に関する「重要な不備」とは?
さて今回のお題は“海外子会社に関する「重要な不備」とは?です。
日本の上場会社では巷でJ-SOXと言われる「財務報告に係る内部統制報告制度」への対応が義務付けられています。具体的には、上場企業は各年度末に、経営者による内部統制報告書の提出と、公認会計士または監査法人(以下、監査法人等)による監査証明が義務付けられています。
当該監査法人等が独立の立場から行う経営者が作成する「内部統制報告書」への内部統制の監査結果については、内部統制の評価に関する監査報告書「内部統制監査報告書」として意見が表明されます。
当該内部統制監査報告書ですが、結構な威力があり、もし当該報告書において「不適正意見」や「意見の表明をしない」といった記載がある場合(イメージとしては、会社の財務数値に繋がる仕組み・内部統制がハチャメチャですね、という感じです)は、証券取引所の上場廃止基準に抵触し、最悪の場合上場廃止になることがあります。
ところで、題名にあげている「重要な不備」ですが、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性の高い内部統制の不備であり、「重要」の程度は、金額的・質的重要性により判断されます。簡単に言い換えると、会社の内部統制に不備があり、誤った財務報告がされることで、投資家の意思決定を誤らせてしまう可能性があるほど重要度の高い状況のことをいいます。
内部統制の評価をする際に「重要な不備」があると即時に「不適正意見」や「意見の表明をしない」とはなりませんが、投資家へ影響を及ぼすもので非常に大事なものです。
この「重要な不備」がもし海外子会社で発生した場合、どうなるか。J-SOXの実施基準には財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、原則として連結ベースで行う、と定められており、連結ベースというのは連結財務諸表を構成する有価証券報告書提出会社、及び当該会社の子会社並びに関連会社を意味するとされています。
このため、いくら海外の子会社で開示すべき重要な不備が出て「よかった~。海外なら影響はない!」とは、残念ながらなりません。内部統制が有効か否かの最終的な結論付けは、連結グループ全体から行われるのです。
実はこの海外子会社での「開示すべき重要な不備」は、誰もが知るような日本を代表する大企業でも見られます。海外子会社で不適切会計を見抜けなかった財務報告体制の不備が、多くの理由です。ここで幾つか海外子会社でおきた「開示すべき重要な不備」を紹介します。
・オリンパス(2012年・オリンパス株式会社のHPより抜粋・加工)
韓国の子会社において元代表理事によって当該子会社の統制環境が毀損されている事実がありました。 当該子会社役員からの内部通報を受け、鋭意調査を実施してきましたが、これに時間を要し、当該子会社の統制環境の不備の特定が当事業年度末以降になったことから、当該事業年度末日までに是正することはできませんでした。 本件については、当該子会社の内部管理体制を見直すとともに、親会社の監視・監督を強化する方針であり、元代表理事を6月に解任しました。 |
・ニデック(2024年・ニデック株式会社のHPより抜粋・加工)
当社の連結子会社であるニデックドライブテクノロジーにおいて、連結決算手続における当社グループの連結子会社間取引を伴う売上高等の連結調整の一部について調整対象を誤認し、売上高が過大に計上されていることが判明しました。 過大計上された売上高を取り消す処理が必要となったため、過年度決算を訂正すべきとの結論に至りました。 決算・財務報告プロセスの内部統制として、起票者が作成した仕訳を承認権限者が承認するルールとなっていましたが、当該誤謬は、関連する組織間でのコミュニケーション不足により調整対象案件を特定する際に必要な正確かつ網羅的な情報の把握、及び決算処理に関するモニタリング体制が不十分であったため、結果的に重要な虚偽表示を発見できず誤謬が発生致しました。 以上より、決算・財務報告プロセスの内部統制上、開示すべき重要な不備に該当すると判断致しました。 |
・中国塗料(2021年・中国塗料株式会社のHPより抜粋・加工)
当社の連結子会社であるCHUGOKU MARINE PAINTS (Shanghai), Ltd.(以下、「CMP上海」という。) において、現地監査人も加わった社則、及び規程類の見直し等の内部統制の改善に関連した話し合いの中で、退職金に相当する支払いに関する労働組合との協約の存在を確認し、検討した結果、本来は負債 計上すべき退職給付に係る負債の計上が漏れていることが判明いたしました。 当社は、本報告書の内容及び会計監査人による指摘に基づき過年度の決算を訂正し、2017年3月期 から2021年3月期までの有価証券報告書、及び2019年3月期第3四半期から2022年3月期第1四半期までの四半期報告書について訂正報告書を提出いたしました。 訂正の原因として、CMP上海において労働組合との協約を適切に財務諸表へ反映させる意識が欠如していたこと、CMP上海における退職給付会計の実務に精通する人材の不足、CMP上海で締結 された労働組合との協約のような人事規程等に対する当社によるモニタリング、及び海外子会社に対 する特に規程類に関する内部監査が十分でなかったことが挙げられます。 これらの当社及びCMP上海の全社的な内部統制の不備は、財務報告に重要な影響を及ぼしており、開示すべき重要な不備に該当すると判断いたしました。 |
日頃から目の届きにくい海外だからこそ、ガバナンス・内部統制を構築し、そして何よりも現地に内部監査や監査役監査を通じて見に行くこと、このあたりが肝要になってきます。
東京事務所/公認会計士 森 大輔 (MD)